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甦るロシア帝国

甦るロシア帝国 (文春文庫)

本ブログではお馴染みになりつつある佐藤優氏の著書です。

過去に紹介した「国家の罠」では自らが逮捕・起訴された国策捜査を振り返っており、「交渉術」では日本の北方領土返還を巡る一連の舞台裏を克明に描いています。

そして本書「甦るロシア帝国」は、ソ連~ロシアという国家を思想面で支えている社会主義共産主義、そしてロシア人の宗教観をテーマにした内容になっています。

具体的にはマルクス・レーニン主義を中心とした思想、そしてロシア正教会を中心とした神学をテーマにしており、今までの作品の中ではもっとも専門的な内容になっていることもあり、はじめて著者の作品を本書を手にとった人にとっては、少し敷居が高いかもしれません。

佐藤氏は大学時代に学んだプロテスタント神学の専門知識を生かし、外交官として活躍する傍らでモスクワ大学で神学の講義をしていた異色の経歴を持っており、その時代を回顧しつつ当時のソ連・ロシアの内部情勢、そして知識人や学生たちとの交流を中心に展開されてゆきます。

専門的な内容にも関わらず会話の内容が克明に書かれており、著者の記憶力、(たぶん日記などの)記録のこまめさ、そして何よりも自分の中へ知識として吸収する能力には、どの著書を読んでもいつも驚かされます。

戦後の冷戦時代下で、民主主義・資本主義国家アメリカと世界の覇権を争ったソ連ですが、バルト三国の独立などによりソビエトは解体することになります。

しかし国家そのもが消滅したわけではなく、エリツィン、そしてプーチンといった指導者に受け継がれたロシア連邦は、ソ連と極めて連続性の高い国家であるといえます。

表題にある「ロシア帝国」とは、皇帝の専制政治により世界を席巻した過去の"帝政ロシア"であり、すなわち現在のロシアが目指すものが帝国主義であることを暗示しています。

それが長年にわたりロシア一流の知識人との意見交換を通じ、著者が至った結論です。

昨今のニュースでも報じられ、そして今までも度々行われてきたロシア戦闘機による領空侵犯は、新生帝国主義ロシアの意志が行動に表れたものといえます。

著者と親交のあるロシア人たちはいずれも政治、経済の混乱の中にありながらも祖国を心から愛し、その未来のために貪欲に知識を吸収しようとする意欲に溢れています。

プーチン大統領
、そしてメドベージェフ首相のタッグによる体制は盤石であり、政策にブレが感じられません。

一方で、ロシアの隣国である日本の政治は混乱と迷走を続けており、その先行きに不安を感じざるを得ません。

マスコミやネットなどの世論に左右されず、自分の考えをしっかりと持った日本人が増えて欲しいと思いますし、自分自身もそうありたいと考えさせられる1冊です。