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ジャンル問わず気の向くまま読書しています。

残るは食欲

残るは食欲 (新潮文庫)

女性向け雑誌「クロワッサン」に連載されていた阿川佐和子氏の"食に関するエッセイ"を文庫本にまとめたものです。

(失礼ながら)50代半ばで独身の阿川氏自身が、自嘲気味に名付けたタイトルもなかなか秀逸です。

雑誌クロワッサンの存在は知っていたましたが、それを手にとる機会のない私にとって文庫本であれば手軽に読むことができます。

とにかく""にこだわった内容ですが、著者自身の手料理の成功談や失敗談、記憶に残る母親の手料理や貰い物の食材にまつわるエピソードなどなど、その旺盛な食欲は伝わってくるものの、決して最高のグルメを追求する高尚な内容ではないため、とにかく肩の力を抜いて読めます。

テーマは何であれ、こうした日常を描いたエッセーを読むコツは一気に読破してしまうと後半に飽きてしまうため、気が向いた時に手にとって少しずつ読み進める手法をお勧めします。

日常的に読書をする習慣のある人であれば、あえて他の本と並行して読み進めるのも悪くありません。

誰にとっても美味しいものではなく、あくまで著者の好み(主観)が前面に主張されているため、読者自身がそれに同意できるかどうかを想像しながら読んでゆくと一層楽しめます。

「泡のないビールなんて、ビールじゃない!」
心の中で叫ぶのだが、泡問題に関してはあまり賛同を得られない。皆様は、どう思われますが?
たしかにビールにとって泡が必要不可欠という部分には同意できるが、グラス全体量の三分の一を泡で満たす阿川氏の注ぎ方はさすがに多すぎる。

カレーもハヤシライスもレモンライスも、ソースは熱々、しかしご飯は一晩寝かせて冷めきった冷やご飯のほうが、炊きたてご飯よりずっと味わい深くなると、ひそかに信じている。
酢飯でもない限り、ご飯はつねに炊きたて熱々の方が好ましいので、この意見は受け入れられない。

しかし安ワインの道は思いの外、深かった。
ワインの階段を上っていくシアワセは、同時に後戻りできない不幸の始まりでもある。
~ 中略 ~
安いワインにどんな掘り出し物があるのか。高級ワインの味と価格の恐怖を知ればこそ味わえる、得難きシアワセではないか。
ワインの味には詳しくないが、確かに安いワインでも充分に美味しい。
著者はオーストラリア産をお薦めしているが、個人的にはカルフォニア産もお薦め。

こんな感じでとりとめもなく食に関するエッセーを楽しめるのですが、空腹時に読むのは控えた方がよいかも知れません。