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会社蘇生

会社蘇生 (新潮文庫)

高杉良氏のビジネス小説です。

タイトルの会社蘇生から想像が付くと思いますが、文庫本の裏表紙にある紹介文を引用します。

宝石、カメラ、ゴルフ用品などの高級ファッション、レジャー商品の輸出入で知られる老舗の総合商社=小川商会が総額千百億円もの負債を抱え、東京地裁民事八部に会社更生法の適用を申請してきた。千百人にのぼる従業員とその家族を守るため、保全管理人とともに商社再建に賭けた男たちを描く感動の長編。

ワンマン経営を続けてきた総合商社が倒産の危機に陥り、それを回避すべく主人公の弁護士・宮野英一郎が保全管理人にとして文字通り企業の蘇生に挑む物語です。

幸いにも私自身は所属する会社が倒産した経験はありませんが、取引先が倒産してしまうという事象は見てきました。

そこで倒産の危機に瀕した企業に起こりうることを簡単に挙げてみます。

  • 優秀な社員から辞めてゆく(=転職してゆく)
  • 給料が減額され、残った社員の士気も萎えてしまう
  • 経営陣と社員の感情的な溝が深くなる
  • 債権者や取引先からの督促対応に追われる
  • 信用を失い、順調だった事業までも売上が低迷する

要するに倒産して1つも良いことは無いのですが、この作品の舞台となる小川商会でもまったく同じことが起こります。

多くの企業を題材にした高杉氏の作品だけあって、その描写にも現実味があり最初から作品には不穏な雰囲気が漂っています。

会社更生法が適用されるものの、一般的に商社の更生は難しく、倒産は免れないというのが(取引先含めた)大方の予想であり、こうした風聞により低下した信用度も小川商会にとって逆風になりました。

そんな中、法律の専門家ではあっても経営の門外漢である宮野が情熱と行動力を持って、痛みを伴う会社更生を牽引してゆきます。

一度はやる気を失った社員たちを鼓舞し、宮野たちに賛同してゆく社内外の協力者を増やしてく過程などは、途中からビジネス小説でありながらも半ば青春小説の様相を呈してゆきます。

会社にとって本当に大切なものは優れた製品やサービス、特許や技術力ではなく、人材であることを最初から宮野は確信していたのです。

高杉氏の作品だけに小説のモデルとなった実在の会社や人物が存在するようです。
崩壊しかけている大組織を再生するのは至難の技ですが、それを見事に成し遂げた人物の物語によって勇気付けられる読者がきっといるはずです。