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カシオペアの丘で 上

カシオペアの丘で 上 (講談社文庫)

著者の重松清氏は、何気ない日常を題材にして感動的な物語を創作するのが得意な作家という印象があります。

そうした意味では今回の物語の主人公はかなり特別です。

妻と小学生の息子と3人で都内に住む39歳の会社員である俊介(シュン)はごく普通の生活を送っていましたが、会社の健康診断で肺に悪性腫瘍、つまりガンが発見されます。

しかもガンはすでに手術の施しようがないほど進行し、医師から余命半年を宣告されてしまいます。

俊介は残された時間を意識した時に過去に捨てたはずの故郷が頭によぎります。

いつも一緒に遊んだかつての幼馴染、家業を継ぐのが嫌で飛び出した倉田家、そこには楽しかった、そして悲しい思い出が秘められていたのです。。。

死期を悟った主人公が故郷に戻り、自らの過去を精算してゆくというストーリーは映画の台本のようであり、上下巻800ページにも及ぶ長編小説になっています。

またこれだけの長編小説にも関わらず、主要な登場人物は主人公(シュン)とその家族、3人の幼馴染(トシ、ミッチョ、ユウ)、娘を事件で失い家族離散となってしまった川原さんなど10人程度であり、その分だけ中身の濃いストーリーになっているのも特徴です。

生き続ける人が死にゆく人へ、死んでゆく人が別れなければならない人へ何を残すことができるのか?
作品のテーマはとても重く、特に主人公と年齢や立場が近い私にとっては小説を通じて自分自身を意識せずにはいられない作品になっています。

ちなみにタイトルの「カシオペアの丘」とはシュンたちが小学生時代に星を見上げた場所であり、現在は幼馴染の1人であるトシが園長を務める故郷の遊園地です。

そこで全員が再会する時、止まっていた過去の時間が動き出します。。絶妙なタイミングで上巻が終わり、下巻を立て続けに手にとること間違いありません。