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海賊とよばれた男(下)

海賊とよばれた男(下) (講談社文庫)

出光興産の創業者・出光佐三をモデルとした、国岡鐵造国岡商店の成長を描いた長編小説「海賊とよばれた男」の下巻をレビューしてゆきます。

戦前に海外進出を果たし大きく成長を遂げた国岡商店は、その海外進出が仇となって敗戦によってすべてを失うことになります。

企業としては大きな負債を抱え、創業者である鐵造自身も終戦時には60歳を迎えていました。

戦後はあらゆる物資が不足し石油も例外ではなく、販売できる商品すら仕入れることが出来ない状況の中では会社を清算するのが普通ですが、作品の冒頭で「ひとりの馘首もならん」と鐵造が厳命した通り、赤字に苦しみつつも1人の従業員さえも解雇することはありませんでした。

ここで上巻~下巻と読み進めてゆくと、本作品がまるでマンガのストーリーのようであることに気付きます。

それは主人公である国岡鐵造をはじめとした国岡商店の従業員たちは、多くの困難を乗り越えて成長してゆきますが、その度に強大な敵が次々と登場するからです。

その中で最大の敵となるのがセブン・シスターズと呼ばれる7社の国際石油資本です。

世界の石油生産を独占していたセブン・シスターズは、GHQ、日本政府、アメリカ政府やイギリス政府へ対しても強い影響力を持っていました。

日本人による民族資本企業であることに誇りを持っていた国岡商店は、彼ら外国資本を受け入れず日本国内の石油シェアを広げていったため、さまざまな妨害を受けることになるのです。

いくら国岡商店が大企業とはいえ、彼ら全員を敵に回すとなると原油を入手できる術がありません。

そこで鐵造は、国内最大の石油タンカーを建造し、当時正式な国交のなかったイラン国営石油会社から単独で原油を輸入することを決断するのです。

この部分はストーリー全体を通じてのクライマックスとなるため詳しくは説明しませんが、絶体絶命に陥った主人公が起死回生の必殺技を放つのに似ています。

しかしこれは行く手を遮る敵を倒すといった単純な動機からではありません。

国際石油資本が結託し、産業にとって血液ともいえる石油を通じて世界中を支配下に置こうとする野望を挫くという決意が根底に流れているのです。

作品中にある鐵造の「俯仰天地に愧じず」というセリフ、つまり現代風にいえば「正義は勝つ」という信念を持って事に臨み続ける姿が、自社の利益だけを追求し、都合の悪い真実を隠し続けようとする現代の大企業に対するアンチテーゼとなり、多くの読者に受け入れられた作品となったように思えます。