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スティーブ・ジョブズ 2

ペーパーバック版 スティーブ・ジョブズ 2

引き続きウォルター・アイザックソン氏によるアップル創業者スティーブ・ジョブズ伝記の下巻のレビューです。

自らの言動が災いして自らが創業したアップルを追い出されたスティーブ・ジョブズでしたが、すぐにネクストというコンピュータ会社を設立し、ジョージ・ルーカスからピクサーというアニメーション会社を買収します。

いずれの会社も順風満帆とはいえない状態でしたが、ジョブズのいなくなったアップル社もまた低迷期に入ります。

やがてピクサーにはジョン・ラセターという天才的なアニメータ作家の活躍もあり、「トイ・ストーリー」をヒットさせたことにより、株式公開を行い安定した成長を期待できる状態になりました。

そしてジョブズがアップルにアドバイザーとして復帰するやいなや当時のCEOであったギル・アメリオを追い出し、アップルの最高責任者へ返り咲きます。

もちろんジョブズにかぎって過去の苦い経験によって性格が丸くなることなど決してなく、最前線で陣頭指揮を取りながら新製品の開発に携わります。

その結果は火を見るより明らかで、ジョブズの要求や罵倒に耐えられなくなった部下たちは次々と辞めてゆき(あるいはクビにされ)ます。

ジョブズにとって完璧な製品を作り上げることのみが最優先事項であり、彼の「現実歪曲フィールド」によって困難と思われていた製品が完成するのです。

彼は完璧な作品を求めるアーティストのような激しい気性を持ち、目的のためなら業界の常識やルールなど簡単に無視し、他人の立場になって気持を理解するつもりなどまったくありませんでした。

社員の雇用を守り、その幸福を実現するつもりなどなく、アップリには一流の能力を持った人間のみが残るべきであり、B級の能力を持った人間を組織から排除することが、よい製品を作るためには必要だという考えを明確に持っていました。

私個人はアップル製品のファンではなく、同社のとるクローズド戦略よりもグーグルやマイクロソフト社のオープン戦略の方が好みですが、それでも本書を読み進めるにしたがい経営者として欠点だらけのジョブズの魅力に引きこまれてゆきます。

ジョブズが陣頭指揮を取る新製品開発の現場は戦場さながらの緊張感と厳しさがありましたが、彼は自らに対しても妥協を許さない姿勢で臨み、社長室にふんぞり返って指示をする経営者ではありませんでした。

アップルのような世界的な大企業において、新製品開発の細かい部分にまで関わる最高責任者は前例がありません。

誰よりも熱い情熱とビジョンを持ち、部下たちはその力に牽引されるかのように達成困難と思えるような、自分自身が驚くほどの成果を生み出すのです。

ジョブズのこの姿勢は、死に至る病魔(がん)に侵されたあとも変わることはありませんでした。

30年に渡って失わなかった常に前に進み続ける情熱、類まれな直感想像力を持っていたジョブズの功績を本書では次のようにまとめています。

  • アップルⅡ - ウォズニアックの回路基板をベースに、マニア以外にも買えるはじめてのパーソナルコンピュータとした。
  • マッキントッシュ - ホームコンピュータ革命を生み出し、グラフィカルユーザインターフェースを普及させた。
  • 『トイ・ストーリー』をはじめとするピクサーの人気映画 - デジタル創作物という魔法を世界に広めた。
  • アップルストア - ブランディングにおける店舗の役割を一新した。
  • iPod - 音楽の消費方法を変えた。
  • iTunesストア - 音楽業界を生まれ変わらせた。
  • iPhone - 携帯電話を音楽や写真、動画、電子メール、ウェブが楽しめる機器に変えた。
  • アップストア - 新しいコンテンツ製作産業を生み出した。
  • iPad - タブレットコンピューティングを普及させ、デジタル版の新聞、雑誌、書籍、ビデオのプラットフォームを提供した。
  • iCloud - コンピュータをコンテンツ管理の中心的存在から外し、あらゆる機器をシームレスに同期可能とした。
  • アップル - クリエイティブな形で想像力がはぐくまれ、応用され、実現される場所であり、世界一の価値を持つ会社となった。ジョブズ自身も最高・最大の作品と考えている。

PCやスマートフォン、デジタルコンテンツに至るまで、ジョブズの存在がなかったら今のインターネットは違ったもの、つまり今ほど便利でない別のものであった可能性は高いと言わざるを得ません。

氾濫している過去の経営者の金科玉条を寄せ集めたようなビジネス書よりも、ジョブズの生涯を赤裸々に描いた本書から得られるものの方が大きいように思えます。

ジョブズほどの功績を残した人間でさえ完全な人間ではなく、むしろ多くの欠点を持った人間だったのです。


本書を生み出した著者であるアイザックソン氏の丁寧な取材、そして作家としての真摯な姿勢を感じることができ、他の作品も読んでみようという気にさせてくれます。