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マンボウ 最後の大バクチ

マンボウ 最後の大バクチ (新潮文庫)

著者の北杜夫氏は2011年に84歳で亡くなっています。

よって2009年に出版された本書は、40作品以上にもなる北氏のエッセー「マンボウシリーズ」最晩年の作品になります。

以前ブログで紹介した記念すべき第一作「どくとるマンボウ航海記」の出版が1960年であることを考えると、実に半世紀にも渡ってコンスタントにエッセーを書き続けてきたことになります。

正直に言うとエッセーはまったくの創作ではないため、80歳近くの老人が一般読者へ好奇心をそそるような話題を提供できるかどうか一抹の不安がありありました。

しかし本書を読み始めて、それがすぐに杞憂であることを知ります。

そもそも北氏のエッセーは教訓めいたものを読者へ押し付けることはせず、とことん肩の力を抜いた作風で知られます。

北氏は若い頃から躁鬱症であり、70歳を過ぎて人生最後(!?)の躁病を発症したところから話がはじまります。

そこで北氏は、家族そして古くからの友人とともに国内外問わずギャンブルの旅に出かけることになります。

韓国のカジノ、国内地方競馬、そして競艇といった具合に次々とギャンブルに手を出してゆきます。


杖なしでは歩行できない状態にも関わらず、徹夜でカジノへ入り浸る北氏の意欲は並々ならぬものを感じさせます(もっとも北氏いわく躁病のせいなのですが。)。

老年を迎えた北氏にとってギャンブルはすでに一攫千金の手段ではなかったのかもしれません。

夢中になり興奮すること自体が目的かのように、最後は有り金を失い悔しがる北氏の姿は、どこか半分満足しているかのような微笑ましい姿でもあります。

ギャンブル旅行記のあとには、北氏にしては珍しく「消え去りゆく物語」と題して、すでに亡くなってしまった親交の深かった知人たちを追憶するかのようなエッセーを載せています。

それでも内容はあくまでも楽しいエピソードやユーモアが中心で、決して湿っぽくならないのが北氏らしいところです。

50年にも渡って書き続けられたエッセーの作風が殆ど変わらないことに驚きを覚えるとともに、まったく色褪せない内容であるのは、北杜夫が世代を超えた昭和を代表する作家である証明なのです。