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播磨灘物語(2)

新装版 播磨灘物語(2) (講談社文庫)

播磨灘物語は今まで何度か読み直してきたお気に入りの作品ですが、今回読んではじめて気付いたことがあります。

それは数多くの歴史上の人物を描いていきた司馬遼太郎氏にとって、黒田官兵衛へ対してかなりの愛着を抱いていたということです。

"戦国時代"という名称が示す通り、日本全土が群雄割拠の様相を呈し、古い中世の常識が破壊されるとともに倫理や道徳が軽んじられた時代ともいえます。

冷静さよりも勇猛さが重要視され、忠義よりも損得勘定に走る武将が多数を占めていました。

その中にあって官兵衛は、荒れた世相に自らは染まらず、"如水"という彼自身の号が示すように泰然として構え続けたイメージがあります。

そんなところが普段は控えめな性格であった著者の好みに合ったのかもしれません。

官兵衛自身にも立身出世位を目指す野望があったことは確かだと思います。

しかし多くの戦国の英雄たちが行ったように、自らの仕える主家を倒してまで這い上がるような"アクの強さ"はありませんでした。


まして彼は、播磨の豪族である小寺家の家老の地位を世襲で手に入れる幸運にも恵まれ、さらに主人の小寺藤兵衛(政職)は決して聡明な人物とは言えず、官兵衛ほどの能力があればその地位を奪うのも容易だったに違いありません。

しかし官兵衛は主家の小寺家を裏切ることなく、早くから織田信長と接触するなどして主家の生き延びる道を見つけようとしてきました。

やがて織田家との外交の窓口となった部将・羽柴秀吉との距離が近づくに従い、天下の情勢に関心のない主家や、ほかの家臣から疎んじられるようになります。

中国地方にも織田軍の足音が聞こえるようになり、ようやく3巻から官兵衛の運命も大きく変わろうとしています。