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航海者―三浦按針の生涯〈下〉

航海者―三浦按針の生涯〈下〉 (文春文庫)

「事実は小説よりも奇なり」と言われますが、本書の主人公・三浦按針(ウィリアム・アダムス)の生涯はまさしくそれを体現しているのではないでしょうか。

イギリス人の航海士が、漂着の果てに辿り着いた神秘の国・日本。

そこは戦乱の真っ最中であり、最も力を持った大名・徳川家康と運命的な出会いを果たします。

家康はアダムスの人柄と見識を気に入り、海外との外交顧問として重宝します。

家康は信長や秀吉と比べて華美さや奇抜な発想を好みませんでしたが、合理的で現実的な思考については極めて優れていた人物です。

一方のアダムスもポルトガル人やスペイン人とは違い、キリスト教の布教と交易による利益を切り離して思考できる人物でした。

それはアダムスが(イギリス人であるため)カトリック教徒でなかったことも大きな要因ですが、船乗りとして培った分析能力や判断力で適切な助言を家康へ与えることができたのではないでしょうか。

その結果アダムスは旗本として取り立てられ、領地を持つ"サムライ"の地位に得ることになります。

やがて日本で妻子を持つことになりますが、彼は故郷(イギリス)にも妻子を残しているのです。

アダムス中で葛藤する1人の人間の想い、そして時代の大きな変動。

この2つを巧みに対比させ、スケールの大きな作品として仕上がっています。

海洋小説家・白石一郎氏の傑作であり、お薦めできる1冊です。