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壬生義士伝 上

壬生義士伝 上 (文春文庫 あ 39-2)

浅田次郎氏の代表作であり、司馬遼太郎氏の「燃えよ剣」、「新選組血風録」などと並ぶ新選組を題材とした歴史小説でもあります。

本作品の主人公は南部藩を脱藩し、新選組に参加した隊士"吉村貫一郎"です。

物語は鳥羽伏見の戦いに敗れ、吉村貫一郎が重傷を負って大阪の南部盛岡藩屋敷へ辿りつく場面からはじまります。

そこから時代は一気に明治後半~大正時代へと飛び、生き残った新選組隊士や南部藩士たちが吉村貫一郎を回想し、再び場面が幕末の南部藩の大阪屋敷へ交互に戻るといった形式で話が進んでいきます。

実際に吉村貫一郎に関して分かっていることは、南部盛岡藩出身で彼の名前が偽名(=本名ではない)ということ、新選組では撃剣師範、監察方を努めていたということです。

監査役として時には危険な密偵を行うこともあり、幅広い知識と機敏さが必要となります。
また当然のことながら撃剣師範は、猛者が集う新選組のなかでも屈指の剣の技倆が必要とされます。

つまり客観的に見れば、文武両道の人物であると言えます。

本作品の中では、新米隊員の先生として部下思いであるのと同時に、凄まじい剣の腕で数々の修羅場をくぐり抜ける姿がある一方、家族を愛し(武士にあるまじき)守銭奴と言われながらも故郷へ仕送りを続ける二面性を持った人物として描かれています。

新選組の作品に共通するのは、新しい時代の波に乗り遅れた当時の武士よりも武士らしい悲劇の集団として描かれるのが一般的です。

そして厳しい隊内の規律の中においても不思議にも個人が埋没することなく、パーソナリティが際立った集団であるという点も共通しています。

その中で小説の主人公として抜擢された"吉村貫一郎"がどのように描かれるのか?

新選組ファンにとって必読の1冊です。