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中原の虹 (3)

中原の虹 (3) (講談社文庫)

3巻に入り、250年以上にわたって中国を支配し続けた""にもいよいよ最期の時が迫ってきます。

すなわち光緒帝が崩御し、ほぼ時を同じくして(翌日に)西太后が亡くなります。

西太后による光緒帝の毒殺説が根強くあるほどの歴史の謎とされている出来事ですが、過去に2人は政策面で対立しており、最終的に武力で西太后が勝利して光緒帝を幽閉するまでに至る経緯を考えると説得力があります。

著者の浅田氏は、この一連の出来事の舞台裏を小説ならではの大胆なストーリーで展開してゆきます。
すこし美化し過ぎの印象もありますが、小説の本質である娯楽としての観点から見れば、充分なレベルに仕上がっていると思います。

2人の死後、清の最後の皇帝としてわずか2歳の溥儀(宣統帝)が即位することになりますが、張作霖孫文をはじめとした新しい時代の到来を告げる勢力の前には、余りにも無力な存在です。

更に古い時代と新しい時代の空白の時間を突くかのように、近代兵器を備えた"清最強"の北洋軍を率いる袁世凱が政権を奪い、台頭することになります。


武力を背景にした強引さと、目的のためには(裏切りや恫喝などの)手段を選ばないやり方が災いして、歴史的には低い評価をされる傾向がある袁世凱ですが、叩き上げとして軍で出世した彼に優れた統率力と戦略眼があったのは間違いありません。


一見すると大胆不敵な袁世凱ですが、彼の古くからの同僚である徐世昌の視点を通じて、過去に科挙試験に落第した経験を未だに引きずり続けている繊細な心の持ち主というのが本当の彼の姿であるという、ここでも小説ならではの描写がされています。

何のバックボーンも持たない袁世凱が頂点まで登りつめることが出来た背景には、大胆な言動に隠された臆病さと用心深さがあった。

確かにこの仮説は、案外を射ているかも知れないと思います。